みどりの旅路

実務と研究から自然と文化をたどる共生論・多様性論

チョコレートの原料と製造の歴史 ーバレンタインチョコとSDGs (その1)

義理チョコ(懐かしい!)からも縁遠くなったけど、今日(2月14日)はバレンタインデー

 

そこでチョコレートの話をしよう。

と言っても、チョコの美味しさや人気ブランドではなく、チョコをめぐる歴史と植民地化などの国際関係など、いわばチョコレートと生物多様性(生物資源)だ。

 

最近はバレンタインチョコの選択も、ブランドやデザインなどではなく、SDGsの観点が盛り込まれることが多いと言う。

SDGsについては後日アップとして、まずは

 

目次

 

チョコレートの原料


チョコレートの原料は皆さんご存知のとおりカカオ豆だ。

 

カカオ豆は、カカオの木の幹から直接垂れ下がったように付いている20〜30cmほどのラグビーボールのような実の中に詰まっている。
幹に直接付いているような実の付き方は、ジャックフルーツなど熱帯果実には多いが、日本の果実を見慣れているとちょっと驚く。

 

カカオの赤黒く熟れた実を割ると、20〜30個ほどの白い果肉が顔を出す。
この果肉、食べるとほのかな甘さがある。
カカオ農園で果肉を食べた時、農園主に中の種子を捨てないように注意された。

この種子がカカオ豆だ。
このわずかな豆が、チョコレートの原料となるから貴重なのだ。

下の写真のように、カカオ豆の断面を見ると紫色だ。
チョコレートにポリフェノールが豊富なことを物語っていそうだ。

幹からぶら下がるカカオの実(インドネシアスマトラ島ランプン州にて)

 

カカオの白い果肉とその中のカカオ豆の断面(下の紫色)

カカオの生産地はガーナが有名だが、インドネシアは世界第3位の生産国だ。

チョコレートの製造


チョコレートは、かつては飲み物だった。現代日本で私たちが飲むココア飲料のような飲み方だ。

 

アール・ヌーヴォーを代表する作家の一人アルフォンス・ミュシャ(1860〜1939)のリトグラフ(版画の一種)の作品。
「ショコラ・イデアル(チョコレート・アイデアル)」(1897年)という独特の淡い色彩の宣伝ポスターの中央には、湯気の立ち昇る三つのチョコレートのカップを盆に載せた母親と、その足元に駆け寄る二人の子供が描かれている。
商品は、六カップ用のカカオ粉末だ。

ということは、少なくとも19世紀末にはまだ、チョコレートといえば引用だったということだろう。現在でも、ラテンアメリカや北米、ヨーロッパでは、飲み物の「ホット・チョコレート」に人気がある。最近では、日本のカフェなどのメニューにも登場している。

 

アルフォンス・ミュシャ「ショコラ・イデアル」(小田急百貨店ミュシャ展にて)

現代の日本で目にするようなチョコレートの製造は、オランダのカスパルスとコンラート・Jのバンホーテン(ファン・ハウテンとも)親子の発明が契機となっている。

彼らは、脂肪分の少ない粉末チョコレート、すなわちココアパウダーの製法(1828年に特許取得)とアルカリ塩を加えて飲みやすくする製法(ダッチプロセス)を開発した。この親子こそ、現代に続くココア製造会社バンホーテン社の創業者だ。

 

その後、イギリス人ジョセフ・フライによって固形チョコレート、現代で言う板チョコが発明された。

さらに、スイス人科学者アンリ・ネスレネスレ社創業者)の粉ミルク製法開発、これを利用したスイスのチョコレート製造業者ダニエル・ペーターによる板状ミルクチョコレート開発などにより、徐々に現代のチョコレートに近づいていった。

 

私が研究などで通ったインドネシアは、世界第3位のカカオ生産国だ。

 

それでは、そもそものチョコレートのふるさとは?

これは次回!

バレンタインチョコの誕生

ところで、バレンタインデーにチョコレートを贈る風習は、日本のチョコレート企業が販売促進のために考案した、との説が有力だ。

企業の販促キャンペーンに乗った私たちのために、後ほど記事アップするように途上国の人々の生活も翻弄されている。何やら複雑な思いだ。

これに対して、冒頭で記したとおり、最近はSDGsを意識したチョコレート選択が増えているのは心強い。

 

もっとも、販促も現代に始まったものではなく、『土用の丑の日に鰻』のキャンペーンも、江戸時代の天才、平賀源内の考案だという。

この販促キャンペーンによる大量消費(だけではないが)によって、ウナギの稚魚シラスが絶滅の危機に瀕しているとしたら、源内さんもなんと罪深いことか?

 

コマーシャリズムにより、原料の生物資源や生産に携わる人々に皺寄せがいくのは、いつの世でも常のようだ。

 

この記事は、拙著『生物多様性を問いなおす 世界・自然・未来との共生とSDGs』(ちくま新書)第1章「現代に連なる略奪・独占と抵抗」第2節「熱帯林を蝕む現代生活」に掲載の「ほろ苦いチョコレート」をもとに加筆修正しています。

生物多様性を問いなおす』(ちくま新書

先を急ぎたい方は、上記の拙著をご覧ください。
目次(構成)などの概要は、記事「『生物多様性を問いなおす』書評と入試問題採用 」からご覧ください。(2023/3/1追記)