みどりの旅路

実務と研究から自然と文化をたどる共生論・多様性論

『生物多様性を問いなおす』書評と入試問題採用

ブログを書いていると、正直なところ読者の反応が気になる。

私はこのブログ以外のいわゆるSNSはやっていないが、読者の皆さんの中には多くのSNSを駆使している方も多いことだろう。そして、バズることを期待している方も多いことだろう。

私も、このブログのスタート「ブログ再開の辞」で書いたように、ブログができるだけ多くの皆さんにご覧いただけることを期待しているのも事実だ。

そして、「生物多様性」ということが一人でも多くの方の目に留まり、関心を持っていただき、理解されることを・・・

誰でも、自分の仕事や振る舞いを評価してほしいし、他人の目も気になるものだ。

私も然り・・・・

 

目次

 

そこで、拙著『生物多様性を問いなおす 世界・自然・未来との共生とSDGs』(ちくま新書)の評判(書評)をググってみた。

生物多様性を問いなおす』書評

出版(2021年1月)からしばらくして、出版社編集者から書評の掲載されている新聞や雑誌のコピーが届いた。

その中に、毎日新聞社が発行するビジネス誌週刊エコノミスト(2021年3月12日号)「話題の本」欄の書評もあった。

「・・・多様な生物の存続が不可欠と著者は論ずる。先進国が途上国の生物資源を収奪してきた歴史も詳述している。・・・ディテールがよく調べられていて面白い。」との評でホッと胸を撫で下ろした。

weekly-economist.mainichi.jp

書籍の評判といえば、ご存知アマゾンには五つ星の評価とレビューがある。

また、読書の記録・管理のweb 読書メーター(bookmeter)でも11人(2023/02/19現在)の方が感想・レビューを投稿してくださっている。

bookmeter.com

これまた、いずれもご好評をいただき安堵しているところ。

 

調べてみると他にも、「はてなブログ」を含めて何人かの方が拙著を紹介・書評してくださっていた。

全てを調べ尽くしたわけではないが、感謝を込めて書評記事をいくつか紹介させていただく。

 

Yuma Yasueさん

「わかりやすいだけでなくて、政治的な利害や宗教観念が見え隠れする議論の場で「地球のため」という大義を通すことの苦労や葛藤に触れている文体が良かった。」

note.com

fukusuke55さんの「本と散歩と・・・」

「私の頭の中にぐるぐる巡っていたパラドクスが本書で整理されました。「解決」とは違う感覚。「気づくことができてよかった」と心から思いました。・・・「日々を大事に生きよう」と、なぜか哲学的な思いに溢れた読書体験でした。」

fukusuke55.livedoor.blog

内野知樹さんの「内野日誌」

「強国が世界中に進出し、略奪し、支配し、それによる現在まで続く対立、国立公園における先住民への非人道的扱いからの復権、ゆたから自然を壊さない共存、人類はどのように自然と関わってきたのか、何をしてしまったのか、共生は可能なのか、などこれまでの歴史とこれからのことを学ぶことができる。」

tomokiuchino.blogspot.com

wsfpq577さん

「やや日本史を「自然との共生」に引きつけすぎにもみえるが、エコツーリズム・国際平和公園・持続可能な開発援助などさまざまな論点が紹介され、コスパは高い。」

wsfpq577.hatenablog.com

nakaさん
「この本のタイトルを見た瞬間手に取り、購入しました。・・・・人間と自然の共生【相利共生】がSDGs達成に向けて大切であり、生物多様性を問い直すべきだと。」

note.com

しのジャッキー(篠崎裕介)さん

「これまで自分で調べていたTNFDとかの文脈だと、以下みたいに、グローバルのリスクだよね、という側面からの知識が主でした。一方で、本書から得られた視点は、「高い生物多様性資本を持つ国(なかでも特に発展途上国)」vs「生物多様性の資本を多く持たない国(特に先進国)やグローバル企業」という構図でした。」

note.com

「人類もその一員である生物圏全体の進化の可能性を内包した生物基盤の保全無くして人類存続はありえない。これらを統合した第3のアプローチが求められるとして、この全体像を以下のようにまとめられていて、全体が俯瞰でき助かりました。」

note.com

 

(上記の引用は、各ブログ書評からの一部)

 皆様、ありがとうございます!!

 

他にもたくさんの方からブログでご紹介いただいているかと思います。

見落としもあるかと思いますので、ご紹介いただければ幸いです。

多くの方々により好意的な評価をいただくのは、著者としても大変励みになります。

 

入試問題にも採用!

書評だけではなく、大学や公立の図書館の環境関係図書リストにも掲載されていた。

 

さらに、「ゆめほたる環境読書感想文コンクール2022」の中学生の部の推奨図書にもなっていた。

 

それだけではない!

 

日本体育大学ほかの大学や茨城県立高校など高校、そして中学までもの2022年入学試験の国語の問題文にも採用・出題されていた。

もちろん入試問題作成のたびに著者に連絡があるわけではない(事前に連絡したら、入試問題がバレてしまうからね)。入試問題として無許可利用するのは、著作権法上の例外規定のようだ。

 

しかし、学習教材関連出版社が「入試過去問問題集」を出版する際には、著者の掲載許可が必要となるので、著者の知るところとなるというわけだ。

 

入試問題に採用!

それも、著書内容に関連した生物科や社会科の科目ではなく、国語科の問題というのが驚きだった。

 

文章を生業とする小説家以外にも、物理学者で随筆家でもあった寺田寅彦のエッセイなどは、国語の教科書や問題文として採用されていることで有名だ。

 

拙著がそれらの偉人たちと同レベルとは思えないが、実際に出題された入試問題文を手に取って見ると、なんとなく頬が緩む気がするのも事実だ。

 

(以下、2023/3/1追記)

書籍の概要

生物多様性を問いなおす』(ちくま新書

著者: 高橋 進
発行所:筑摩書房 (2021年1月刊) ちくま新書(1542) 286ページ  
価格:880円(税込968円)

概要:

自然共生社会の実現やSDGsを見据え、将来世代に引き継ぐべき 「三つの共生」とは?大航海時代以降の植民地・帝国主義時代か らグローバル企業などによる現代のバイオテクノロジーの時代ま での生物資源をめぐる先進国・途上国という構図や国立公園で生 じる軋轢や地域社会との関係から、地球公共財をめぐる収奪・独 占という利益第一主義を脱し、相利共生を実現する構図を示す。

【目次(構成)】

プロローグ 混乱の中での問いかけ

第一章 現代に連なる略奪・独占と抵抗
1 植民地と生物資源
西洋料理とコロンブスの「発見」/ヨーロッパの覇権/チョウジと東インド会社/プラントハンターと植物園/日本にも来たプラントハンター/日本人が園長―ボゴール植物園物語/ゴムの都の凋落
2 熱帯林を蝕む現代生活
そのエビはどこから?/東南アジアのコーヒー栽培/インスタントコーヒーとルアックコーヒー/ほろ苦いチョコレート/日本に流入するパームオイル/地球温暖化生物多様性/熱帯林の消失
3 先進国・グローバル企業と途上国の対立
先住民の知恵とバイオテクノロジー/グローバル企業と生物帝国主義/搾取か利益還元か/農業革命と緑の革命/品種改良と遺伝子組換え/バイオテクノロジー企業の一極支配/途上国と先進国の攻防/生物多様性条約/遺伝子組換え生物の安全性をめぐって/名古屋議定書=生物の遺伝資源利用の国際的ルール/ポスト愛知目標からSDGsへ

第二章 地域社会における軋轢と協調
1 先住民の追放と復権
放逐された人々/保護地域の発生/国立公園の誕生と拡散/地域社会との軋轢と協調/先住民への土地返還/排除から協働へ/日本の国立公園は?
2 地域社会と観光
植民地とサファリ観光/エコツーリズムの誕生/エコツーリズムと地域振興
3 植民地の残影から脱却するために
インドネシアの国立公園/地域社会と協働管理の胎動/多様な管理実態/エコツーリズムと地域住民

第三章 便益と倫理を問いなおす
1 生きものとの生活と信仰
オオカミ信仰/駆逐か共生か/米国の捕鯨と小笠原/捕鯨をめぐる文化と倫理/もののけ姫―森の生きものと人間
2 生物絶滅と人間
アイルランドのジャガイモ飢饉/第六の大量絶滅/眠れぬ夜にカの根絶を考える/生物多様性の誕生/キーワードは変遷する/生物多様性が必要な理由(わけ)/絶滅生物は、炭鉱カナリアでありリベット一つである

第四章 未来との共生は可能か
1 過去から次世代への継承
自然の聖地/世界遺産富士山/植物名と山岳信仰/現代に蘇る聖なる山/国境を越えた国際平和公園/悠久の時を生きる巨樹/巨樹―未来への継承
2 持続可能な開発援助とSDGs
地域住民と連携した熱帯林研究/持続可能な国際開発援助/コスタリカの挑戦/SDGsの系譜/「環境の炎」が「開発の波」に打ち消される/生物多様性とSDGs

終 章 ボーダーを超えた三つの「共生」
世界・自然・未来との共生を目指して/生物多様性保全の二つのアプローチ/第三のアプローチ/「全地球的」問題か、「一地域の」問題か/「資源ナショナリズム」か、「地球公共財」か/生きとし生けるものへの眼差しの変化/人間は自然の「支配者」ではなく、「一員」である/三つの共生

エピローグ 幸せの国から

参考文献

 

カカオ豆の原産地と植民地への拡散、そしてフェアトレード ―バレンタインチョコとSDGs (その2)

バレンタインデーにちなんでチョコレートの話の続き。

 

前回に記したように、チョコレートは元々は今と違って飲用だった。

そして、現代のようなチョコレートの形状になったのは、オランダやイギリス、スイスなどの人々の発明と工夫による。

そのチョコレートの原料はカカオ豆で、生産量の第1位はコートジボワール、2位がガーナ、そしてインドネシアが第3位、ナイジェリアが第4位だ(総務省統計局「世界の統計2022」)。

 

現代ではアフリカの国々でカカオ豆の生産量が多いようだが、そもそもカカオの原産地はどこなのだろうか。

 

目次

 

チョコレートのふるさと

カカオの原産地は中米で、紀元前の古代、アステカ文明マヤ文明の頃、あるいはその前から栽培されていたともいわれている。

糖質に富んだ果肉とともに発酵したカカオ豆は、露天で乾燥した後に粉砕、焙煎され、トウガラシやバニラなどの香辛料とともに熱湯で混ぜられて、晩餐会などの飲み物になったという。

少なくとも、マヤ文明が栄えた頃にはカカオ豆からチョコレートが造られていたのは確かなようで、もともとは薬として珍重されていたようだ。

 

そして、貴重なうえ、軽量で耐久性もあるカカオ豆は、交易の際に金の代わりの貨幣代わりにも使用されていたという。

 

マヤ文明の都市ウシュマル遺跡(世界遺産)(メキシコ・ユカタン半島)。現在ではジャングルの中に埋没して点在している数々の遺跡は、雲間に浮かぶ天空の城ラピュタを彷彿とさせる。

ここウシュマルでも、古代の人々はチョコレートを味わったのだろうか。

 

 

左:魔法使いのピラミッド
右:総督の館(奥)と生贄の心臓を置く台チャックモール(手前)

ヨーロッパ列強のカカオ栽培

貨幣代わりに使用されたカカオ豆は、ラテンアメリカ全体に広まった。

しかし、チョコレートを既に造っていたマヤやインカの大帝国も、スペイン人などの征服者(コンキスタドール)によって破壊され、滅ぼされた。

 

インカ帝国の首都だったクスコ(世界遺産)(ペルー)では、隙間には剃刀の歯さえも入らないという堅牢なインカの石積みの上にキリスト教教会やコロニアル風建物が建設された。
コンキスタドールでさえも、堅牢な石積みを破壊することができなかったのだ。

 

中央部の黒っぽい平滑な石積みがインカ時代のもの(クスコにて)

トマトやジャガイモ、カボチャなど多くのラテンアメリカ原産の作物とともに、チョコレートもヨーロッパに伝えられた。

しかし、原料となるカカオは、トマトやジャガイモのようにヨーロッパで栽培されることはなかった。

 

カカオは熱帯性の植物だからで、ヨーロッパに原料を供給するために、原産地のラテンアメリカには、ヨーロッパ人によるカカオ農園が開かれた。

農園といっても、日陰を好むカカオの木の性質から、大規模な開けたプランテーションではなく、里山的な多樹種と混在した栽培が適しているようだ。

 

その後、ラテンアメリカの農園での病害発生でカカオの生産が落ちると、今度は同じくヨーロッパ諸国の植民地だったアフリカに生産の場が移った。

新たな生産地は、アフリカの中でもまだ植民地化の進んでいない中央アフリカや西アフリカが中心で、カカオ農園での労働は奴隷が担った。

19世紀の帝国主義の時代、ヨーロッパ列強による植民地の争奪戦が繰り広げられたが、チョコレートもこの争いに組み込まれていったのだ。

 

現在の高級チョコレートで有名なベルギーも、この争奪戦によってアフリカに植民地(コンゴルワンダなど)を獲得した国の一つだ。

世界のカカオ豆生産量第1位のコートジボワールは、かつて象牙海岸とも称されたフランス領西アフリカだった。

日本でチョコレートの製品名称にも付けられているガーナは、植民地となった西アフリカ黄金海岸の地域で、独立後の現在では世界第2位のカカオ豆生産国だ。

 

ヨーロッパ列強は、20世紀に入ってもカカオ生産による利益を求めて、アフリカだけではなく東南アジアなどでも栽培を広げた。

インドネシアは、前述のとおりガーナに次いで世界第3位のカカオ豆生産国となっている。(以上の生産国順位は、総務省統計局「世界の統計2022」)

中国やインドなどの経済力向上に伴い、これらの国でのチョコレート消費量も伸び、最近ではベトナムなど新たな地域での良質豆生産が注目されている。

 

チョコレートとフェアトレードSDGs

世界各地で生産が拡大したカカオ豆の価格は、近年では急暴落している。

その理由の一つは、ロンドンなどのカカオ市場でグローバル企業や投機家たちが少しでも低価格のカカオ豆を買付けようとすることによる価格競争だ。

また、先進国でのコマーシャリズムによる、チョコレートからキャンディーなど他商品への嗜好変化によるカカオ豆消費量の減少もある。

 

ガーナのカカオ農家は以前は安定した収入を得られたが、価格暴落により現在では経営できなくなり、首都アクラなどの都会には農村から出てきた職のない人々やストリート・チルドレンがあふれているという。

 

最近では、こうした生産地の人々の生活向上や環境保全にも配慮して、原料や製品を適正価格で継続的に買い付けて流通させる「フェアトレード」の仕組みが注目されている。

これが、地球上の誰一人も取り残さずより良い世界を目指す、2030年までに達成すべき17ゴール(目標)を示した「持続可能な開発目標(SDGs)」に合致する仕組みであり、経済・社会・環境のそれぞれを調和させ、先進国も含めたすべての国、さらには企業や自治体、市民一人ひとりが取り組むべき行動だ。

 

私たちがバレンタインチョコを選ぶときに、単に味わいやデザイン、ブランドイメージではなく、製品となるまでの原料生産(カカオ生産)から製造過程、さらにパッケージなどの廃棄処分までも考慮することが、SDGsの達成には求められるのだ。

SDGsピンバッジを背広の胸に輝かせるだけでは、単なるファッションに終わってしまう。

 

いや、バレンタインデーにSDGsチョコを選択するのがファッション(ブーム)でも、まぁいいか・・・な

 

この記事も、前回同様に拙著『生物多様性を問いなおす 世界・自然・未来との共生とSDGs』(ちくま新書)の第1章「現代に連なる略奪・独占と抵抗」第2節「熱帯林を蝕む現代生活」に掲載の「ほろ苦いチョコレート」をもとに加筆修正しています。

 

チョコレートの話(歴史)がなぜ生物多様性と関連するのか?

カカオのほかゴムやコーヒー、チョウジなど、大航海時代以降の帝国主義・植民地時代と生物資源の話(歴史)はそのまま、現代の生物多様性条約・議定書などをめぐる先進国・多国籍企業と途上国の対立に繋がるのだ。

すなわち現代に連なる南北対立の萌芽は、コロンブス以降の大航海時代に始まるとも言えるだろう。

 

いずれにしても、

コンキスタドールなどの武力による征服は、歴史上の出来事だけではない。
現代の世界でも、ロシアのウクライナ侵攻など、武力による他国への侵攻・支配や同じ国内の少数民族の抑圧などが行われている。

政府・国家権力だけではない。
かつての(イギリスとオランダの)東インド会社がそうであったように、現代の多国籍企業は国家権力と同様、あるいはそれ以上の(見えない)力で、世界支配を企んでいるのだ。

 

生物資源が原産地から遠く離れた地に移された現場を訪れた旅路の話、さらに多国籍企業フェアトレードSDGsの話は、またの機会に!

 

先を急ぎたい方は、上記の拙著をご覧ください。
目次(構成)などの概要は、記事「『生物多様性を問いなおす』書評と入試問題採用」からご覧ください。

 

より深く知りたい方のご参考までに

チョコレートの歴史については多くの書籍が刊行されているが、例えば以下などがある。

 

ソフィー・D・コウ、マイケル・D・コウ(樋口幸子訳)『チョコレートの歴史』河出書房新社

武田尚子『チョコレートの世界史 近代ヨーロッパが磨き上げた褐色の宝石』中央公論新社

 

チョコレートの原料と製造の歴史 ーバレンタインチョコとSDGs (その1)

義理チョコ(懐かしい!)からも縁遠くなったけど、今日(2月14日)はバレンタインデー

 

そこでチョコレートの話をしよう。

と言っても、チョコの美味しさや人気ブランドではなく、チョコをめぐる歴史と植民地化などの国際関係など、いわばチョコレートと生物多様性(生物資源)だ。

 

最近はバレンタインチョコの選択も、ブランドやデザインなどではなく、SDGsの観点が盛り込まれることが多いと言う。

SDGsについては後日アップとして、まずは

 

目次

 

チョコレートの原料


チョコレートの原料は皆さんご存知のとおりカカオ豆だ。

 

カカオ豆は、カカオの木の幹から直接垂れ下がったように付いている20〜30cmほどのラグビーボールのような実の中に詰まっている。
幹に直接付いているような実の付き方は、ジャックフルーツなど熱帯果実には多いが、日本の果実を見慣れているとちょっと驚く。

 

カカオの赤黒く熟れた実を割ると、20〜30個ほどの白い果肉が顔を出す。
この果肉、食べるとほのかな甘さがある。
カカオ農園で果肉を食べた時、農園主に中の種子を捨てないように注意された。

この種子がカカオ豆だ。
このわずかな豆が、チョコレートの原料となるから貴重なのだ。

下の写真のように、カカオ豆の断面を見ると紫色だ。
チョコレートにポリフェノールが豊富なことを物語っていそうだ。

幹からぶら下がるカカオの実(インドネシアスマトラ島ランプン州にて)

 

カカオの白い果肉とその中のカカオ豆の断面(下の紫色)

カカオの生産地はガーナが有名だが、インドネシアは世界第3位の生産国だ。

チョコレートの製造


チョコレートは、かつては飲み物だった。現代日本で私たちが飲むココア飲料のような飲み方だ。

 

アール・ヌーヴォーを代表する作家の一人アルフォンス・ミュシャ(1860〜1939)のリトグラフ(版画の一種)の作品。
「ショコラ・イデアル(チョコレート・アイデアル)」(1897年)という独特の淡い色彩の宣伝ポスターの中央には、湯気の立ち昇る三つのチョコレートのカップを盆に載せた母親と、その足元に駆け寄る二人の子供が描かれている。
商品は、六カップ用のカカオ粉末だ。

ということは、少なくとも19世紀末にはまだ、チョコレートといえば引用だったということだろう。現在でも、ラテンアメリカや北米、ヨーロッパでは、飲み物の「ホット・チョコレート」に人気がある。最近では、日本のカフェなどのメニューにも登場している。

 

アルフォンス・ミュシャ「ショコラ・イデアル」(小田急百貨店ミュシャ展にて)

現代の日本で目にするようなチョコレートの製造は、オランダのカスパルスとコンラート・Jのバンホーテン(ファン・ハウテンとも)親子の発明が契機となっている。

彼らは、脂肪分の少ない粉末チョコレート、すなわちココアパウダーの製法(1828年に特許取得)とアルカリ塩を加えて飲みやすくする製法(ダッチプロセス)を開発した。この親子こそ、現代に続くココア製造会社バンホーテン社の創業者だ。

 

その後、イギリス人ジョセフ・フライによって固形チョコレート、現代で言う板チョコが発明された。

さらに、スイス人科学者アンリ・ネスレネスレ社創業者)の粉ミルク製法開発、これを利用したスイスのチョコレート製造業者ダニエル・ペーターによる板状ミルクチョコレート開発などにより、徐々に現代のチョコレートに近づいていった。

 

私が研究などで通ったインドネシアは、世界第3位のカカオ生産国だ。

 

それでは、そもそものチョコレートのふるさとは?

これは次回!

バレンタインチョコの誕生

ところで、バレンタインデーにチョコレートを贈る風習は、日本のチョコレート企業が販売促進のために考案した、との説が有力だ。

企業の販促キャンペーンに乗った私たちのために、後ほど記事アップするように途上国の人々の生活も翻弄されている。何やら複雑な思いだ。

これに対して、冒頭で記したとおり、最近はSDGsを意識したチョコレート選択が増えているのは心強い。

 

もっとも、販促も現代に始まったものではなく、『土用の丑の日に鰻』のキャンペーンも、江戸時代の天才、平賀源内の考案だという。

この販促キャンペーンによる大量消費(だけではないが)によって、ウナギの稚魚シラスが絶滅の危機に瀕しているとしたら、源内さんもなんと罪深いことか?

 

コマーシャリズムにより、原料の生物資源や生産に携わる人々に皺寄せがいくのは、いつの世でも常のようだ。

 

この記事は、拙著『生物多様性を問いなおす 世界・自然・未来との共生とSDGs』(ちくま新書)第1章「現代に連なる略奪・独占と抵抗」第2節「熱帯林を蝕む現代生活」に掲載の「ほろ苦いチョコレート」をもとに加筆修正しています。

生物多様性を問いなおす』(ちくま新書

先を急ぎたい方は、上記の拙著をご覧ください。
目次(構成)などの概要は、記事「『生物多様性を問いなおす』書評と入試問題採用 」からご覧ください。(2023/3/1追記)

生物多様性って何? ブログ再開の辞

15年間の「生物多様性」ブログ

私は15年前からブログで、生物多様性世界遺産・国立公園、巨樹・巨木などについて発信してきた(「人と自然」so-netブログ、現ssブログ)。

ブログ開設の目的の一つが、生物多様性について、多くの人に理解してもらいたいとの思いからだった。

2010年に名古屋で「生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)」が開催された折には、駅などに置いてあるフリーペーパー「R25」(リクルート社発行)の11月18日号の「ところでCOP10って結局、みんなど何を話してたの?」という記事へのインタビューがあった。

担当ライターの方がインターネットで検索して、私のブログが生物多様性について一番わかりやすかったとのことでお声がかかったとか。
誠に光栄であると同時に、ブログの意義・成果があったと安堵した次第。

 

その後、大学を退職したのを契機に、2020年3月でブログを閉鎖した。

それがまたなんで再開?

2020年10月には中国の昆明で、COP10で採択された自然共生などの世界目標「愛知目標」を更新して、ポスト2010年目標を採択する予定のCOP15が開催されるはずだった。
しかし、新型コロナ・パンデミックに対する中国のゼロコロナ政策のため、何度も開催延期となり、ついには2022年12月にカナダのモントリオールで開催された。
モントリオールは条約事務局の所在地だが、議長国はあくまで中国という変則的なCOP会議だった。
ここで採択されたポスト2010年目標が、「昆明モントリオール生物多様性枠組」だ。

 

この2030年までの世界目標は、新聞などマスコミで取り上げられたことは取り上げられたが、「持続可能な開発目標SDGs」や「地球温暖化=気候変動」などに比べると知名度は圧倒的に低い!
そもそも「生物多様性」自体の知名度が低いのが実情だ。またまたヒガミだけど・・・

若者たちも生物多様性保全のための行動を起こしている(COND:https://condx.jp/)ので応援もしたい。

はてなブログを含めて、多くのブログやWebでも「生物多様性」を取り上げているけれど、私も再挑戦したい。

こんなことから、ブログを再開することにした。

生物多様性と言っても硬い話だけではなく、できるだけわかりやすく解説していきたい。
生物学というよりは(もちろん生物学の話もあるが)、むしろ歴史や民俗学、国際関係、時には倫理などに関連することの方が多いかもしれない。私たちの日常生活との関連も。

生物多様性だけではなく、国立公園や世界自然遺産などの保護地域、それにまつわる旅や地域の人々の文化と生活なども・・・

当面は、拙著『生物多様性を問いなおす 世界・自然・未来との共生とSDGs』(ちくま新書2021年刊 https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480073655/)の限られたページ数では書ききれなかった話題や掲載できなかった写真、そして最新の情報などが主となるかなぁ。

生物多様性を問いなおす』(ちくま新書


表題の「生物多様性って何?」については、時間をかけてブログ更新するので、その中で答えを見つけていただければ幸いだ。